2000年8月16日更新

 

 

 

 

 

 

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1994年 中央公論社



 

 

 

 

 

 

 

 

初呑切り

 

Oui
(うゐ)

 


 

 

 

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夏の酒蔵はしんとしている。
その、とある一室。五、六十ほどの酒を充たした利き猪口を前に、杜氏をはじめとする蔵人達が、真剣な面持ちで酒を利いている最中だ。
それぞれが、自分の嗅覚、味覚をフルに働かせ、全ての酒について感想を書き込んでいる。
いくたびも、酒を含んでは吐き、色・味・香りなどの細かなチェックを入念に行う。
その男達の熱気に圧倒されそうだ。
ここは、佐賀の酒蔵「天山」。そしてこれは「初呑切り」の様子である。

☆  ☆  ☆

この「初呑切り」は、夏場における酒の品質管理のため、どこの酒蔵でも行われている作業だ。
今は、蔵内の衛生管理が行き届いているが、昔は「火落ち」が多かった。
江戸時代の『童蒙酒造記』(門外不出の書だったらしい)には、「花降」(はなふり)とあり、「酒に霞のごとき白き物出来る事也。是を病といふ」とあり、「火入れしてもおこることあり」「弱き酒也」と記されている。
酒が酸っぱくなったり、異臭がしたりしてまずくなる「火落ち」を起こす張本人は「火落菌」だ。
昔は、酒の容器に木製の樽や桶を使っていたので、殺菌が完全にできず、火落菌に侵されて大損害をこうむることもたびたびだった。
「初呑切り」の時点で火落ちがなければ祝杯をあげるほどの行事でもあったらしく、杜氏に今の額で100万円ほどのボーナスも出たと言う。

☆  ☆  ☆

さて、再びここは「天山」。
「初呑切り」もそろそろ終わろうとしているのだが、、。
杜氏は、山田錦35%の大吟醸を充たした3個の利き猪口を、何度も利きなおしている。
これにはわけがある。同じ酵母を使っても、その後の熟成がそれぞれ違うからだ。
この後、日を改めて更に「二番呑切り」「三番呑切り」を終えた頃、「秋上がり」として旨い酒が出荷されることになる。

  芳香の新走りありすすめけり
              西山小鼓子

新走り(あらばしり)

秋の季語・新酒のことで、今年酒(ことしざけ)ともいう。

参考

   「日本酒」  秋山裕一   岩波新書

   「醸造の辞典」  朝倉書店

 



プロフィール

Qui
(うゐ)

「天、もし酒を愛せずんば、酒星天にあらず。地、もし酒を愛せずんば、地まさに酒泉なかるべし」
                     李白

美し酒あれば、地の涯までもさがしたい。
モットーは「自分酒義」

 



 

文月 吉日  国造神社の御田祭

「今日は、最後までおられるのですか?」
馬上から神主の宮川さんの声。「はい」と当然のように返事したものの、全く洒落にならないこの暑さ。
それでも祭の行列は、灼けつきそうな道を、青田の中の御仮屋(おかりや)までしずしずと練り歩いて行きます。
対照的なのがカメラ軍団。私の母くらいの(推定70歳くらい)おば様達が、三脚を引っ担いでポイント地点へ殺到してゆきました。
阿蘇神社と違って、国造神社の神幸行列は、阿蘇五岳がどアップに迫るいいアングルなのです。
かくして、約1kmほどの距離をカメラ軍団を引き連れて、行列はやっと到着。
夫が、ぽつりとひとこと。
「あのおばさん達、カメラだけは凄い機種をもってたな」
祭後半は午後三時から。日はまだまだ高いです。カメラ軍団も、私達夫婦も、腹ごしらえのために、畦道をおもいおもいに散ってゆきました。

 

 

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